プロジェクト・ヘイル・メアリー

プロジェクト・ヘイル・メアリーを2022年末にようやく読了した。本作品は2021年末頃に日本国内出版され、各所で話題となっていたが遅ればせながらようやく手に取った。あまりの面白さに2日間程度で上下巻を読破。自分としては三体以来のページをめくる手が止まらないような作品であった。作品のあらすじなどはこちらの記事などを参照頂くと良い。作品の性質上先の展開を知らずに読むほうが楽しめるため、未読了でネタバレが嫌な方はこちらでお引き返し頂きたい。間違いなく自分が2022年に触れた全コンテンツの中で最上位(ジャンル全く違うが映画RRRとためをはるくらい)であったのと、読了後にいくつか思ったことがあるため記録のためにつらつらと文章にする。

何がそんなに面白いのか

そもそも自分はSFのミステリー的側面が好きである。作品冒頭に説明のつかない不可思議な現象や謎が提示され、その魅力的な謎を解決するために論理的・理知的なステップを踏んでいき徐々に明らかにされていく快感が自分がSFが好きな理由と思う。プロジェクト・ヘイル・メアリーでは地球の命運を左右する自然現象として太陽エネルギーを吸収して成長する生物であるアストロファージとそれによる地球(というか太陽系の)寒冷化の解決をテーマに置きつつ、密室空間で記憶喪失状態で目覚めた主人公が科学的アプローチで自分が航行中の宇宙船にいることを特定していくプロセスや、異星生命体との異文化コミュニケーションなど、細かな課題を諦めずに解決していくという作品全体が論理的なアプローチでの課題解決に溢れているのが楽しい。

ファーストコンタクトものもしくは異文化コミュニュケーションものとして

完全にネタバレなのだが作品途中から本作はファーストコンタクトものだったことがわかる。アストロファージの被害を受ける星系に住まう異星生命体であり、主人公と同じミッションを持ったロッキーが登場する。このロッキー、見た目は岩でできた人間の半分サイズくらいの蜘蛛型の生物らしく、まあまあグロいわけなのだが、主人公とは分子模型をとっかかりに共通言語を見つけていき数字など徐々にコミュニケーションを図っていく。ロッキー達(確か作中で主人公は彼らをエイドリアンを名付けたはず)は光に頼らず音や触覚のみを受容器官とする生物なのだが、それが明らかになっていく過程やエイドリアン達の性向/文化などが楽しい。

危機の時代のリーダーとしてのエヴァ・ストラット

作中の時系列でいうと前半にあたるが、太陽光の微量な減少が明らかになった後、その原因の特定と解決にエヴァ・ストラットという人物が任命される。彼女には相当な権力が移譲されているのだが、まあものすごく独断専行な人物である。解決のために必要なリソース(ヒト、モノ、カネ、バショ)をあらゆる手段を使い、受け手の選択肢を無視する形でかき集めいていく。多分何事かを成すリーダーってこういう人物なんだろうなと思うと同時にメンバーとして働くのはめちゃくちゃ大変そうである。近しい人物を自分の知る限り現実で思い浮かべるとイーロン・マスクが近しそう。部下が穏当な計画を持ってきたら徹底的にボトルネックを洗い出させ、あらゆる手段を用いて納期の圧縮や求められるスペックに近づけること求めてくる感じ。本来あらゆる仕事はこうであるべきだよな、と思う一方でここまで切迫して解決しなくていけないイシューに果たして自分は一度でも向き合ったんだっけと自分のキャリアを考えてしまった。

使命に殉じるって

前項から続くが、主人公のグレースは元科学者の理科教師なのだが、諸々あってアストロファージの影響を受けない恒星へと赴き太陽に同じことを再現できないかを明らかにするミッションにアサインされることになる。残念ながらこの度は片道切符(帰りの燃料が宇宙船に積まれていない)のだが、彼は死を恐れながらもミッションに殉じていく。そして最終的には科学の面白さを次世代に伝え、文化を紡いでいくという本懐に再度関わることになるのだがこの終わり方がすごく胸を熱くする。人類がこれまで積み上げたものの中に素晴らしいものは確かに存在し、それを少しでも拡張し再度次世代にそのバトンを繋ぐそれが人生の一つの意味かもしれないと思わしてくれる作品だった。

プロジェクト・ヘイル・メアリーの世界を更に楽しむためにオススメの記事

プロジェクト・ヘイル・メアリーを読んだ後にいくつかネット上で記事を読み、すごく面白く参考になったものをちらほらと

 

Audibleのpodcastでプロジェクト・ヘイル・メアリーのネタバレ感想回。友人と感想を語り合うような楽しさがありオススメ。ただし、有料会員じゃないと聴けないので注意。

Ep.10: 「プロジェクト・ヘイル・メアリー」ネタバレ感想プロジェクト | 『アトロク・ブック・クラブ』〜アフター6ジャンクション presents | ポッドキャスト on Audible | Audible.co.jp

 

プロジェクト・ヘイル・メアリーの一部誤訳の指摘。確かに読んでいて違和感を感じる箇所があったのだが、そこがまさに指摘されていて有難かった。

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プロジェクト・ヘイル・メアリーの主人公が実は英語原文だともっと皮肉屋の斜めに構えた奴であるとの記事。日本語訳版ではそのニュアンスはないのでなるほどな〜という感じ。

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